以前描いた風景画に加筆

加筆と絵の臨場感

ここでは現場で描いた風景画に加筆するときの問題について書いてみたいと思う。
画像の絵は浦賀の漁港。
元の絵(Before)は一度現場で描いてそのままになっていたもの。その後かなりたってから見ると家並みを中心にどうも気になる所がいろいろと目につき加筆することに。その結果がAfterの絵。
この2枚の絵の判断は読者にお任せするが、自分の経験では一般に加筆するほどに最初の絵に合った新鮮な感じや臨場感は犠牲にされ、代わりに全体の調和や堅牢さを得ることが多い。
勿論その時の臨場感を失うことなく、より色彩が全体と結びついて一枚岩になれば言うことはないが、両者の両立は難しいし、結局どちらかを犠牲にしなければもう一方も得難いのではないかと思う。
この絵は描きなぐりのようだし、お互いの色の関係も上手くいっていない、と加筆をしてその結果、色も良くなったし、モチーフ同士の調和や絵の構造的にもしっかりしてきた、でも・・・絵が何かつまらなくなった、というのはよくある事。
モチーフを前にした格闘、混とんとした色調が手を加えることにより何かすっきり整頓されて去勢されたかのようになってしまう。ここで改めていかに現場の臨場感が大事かが分かる。

風景画の場合、現場で深い衝動を得てもその場ではそれを追求する十分な時間なり体力が無かったりするので、どうしても家に持ち帰って手を入れることが多い。
加筆の結果がうまくいかないかは別にして、加筆をしていると、最初にどういう深みからそのモチーフを描きたい衝動を得たかという臨場感が絵の要として大事なことがよく分かる。オリジナルの動機の深さがそのまま加筆の限界を教えてくれ、それを超えて手を入れようとするとその絵のそもそもの土台が無くなり、それなら新たに違う絵を描く方がいいという気になる。
いずれにせよ例え加筆して絵が台無しになったとしても、絵の動機に対してより意識的になるので加筆からはとても得るところが多い。