私の好きな画家たち―その6
モジリアニと言えば、パリで見た彼の大回顧展が忘れられない。場所は確かリュクサンブール美術館だったと思うけど、普通の大美術館とは大分趣が違いよく言えばとてもアットホーム、でも自分の中の記憶では建物内部は薄暗く天井も低い、まるでサーカス小屋の中で名画を見ているようなイメージが残っている(勿論事実とは大いに違うだろうけど)。
しかしそこで見た彼の作品群にはただただ圧倒された。それ以前からモジリアニの絵は大好きだったが、あれほど感動したことはなかった。神々しいという言葉が決して大げさではない作品だった。
で、以下はそれを表現するにはまったく舌足らずな文章。
モジリアニーの絵は不思議だ、何か別世界の香りがする。美術館などで彼の絵を見ると、遠くからでもひときわ輝き、目に飛び込んでくる。その作品の周りだけ違う空気が流れている気がする。
彼の絵は月並みな解釈を寄せ付けない。仮に線や色について語ったところで、結局それは衣に過ぎないのであり、一つの稀有な魂がそのまま顕現したような絵には無力だ。
それはセザンヌやボナールのような色彩の追求とも無縁だし、印象主義の後、表現主義、立体主義など様々な運動が起こったその渦中にいたにもかかわらず、殆ど影響を受けることなく自分の芸術を完成させたように見える。色は至って単純、モデルも極端に単純化されて、わずかの線と色の変化で対象を捉えている。普通こんな描き方をすれば戯画となりかねないし、少なくとも薄っぺらで物足りない感じがするものだが、その単純さが逆に力強さ、精神性を際立たせている。短い命を予感したかのように、余り右へ左へとぶれることなく最終章へ向かってひたすら収束していったような絵の軌跡だ。
2枚目の絵は死ぬ前年に描かれている。横たわる裸婦という古典的テーマだが、このテーマがこれほど現代的に蘇るとは彼がいなければとても想像できなかっただろう。ここには、1枚目の絵に見られるような若い時のエネルギーは削ぎ落とされ、静謐で、なにか憂いをたたえている。宗教画のように厳か、色彩はしっとりとしていて、燻し銀のような上品な輝きを放ち、例えようもなく美しかった